冬真の視線の意図が分かった彼女は「何か文句あるのか」と言いかけるが、画面に表示された名前を確認し、激しいシャウトを遮るように保留ボタンを押した。
この電話には出たくない。
否、出るべきではない。
それもこんな夜分遅くに。迷惑極まりない。
「……何だ、出ないのか?」
「口煩いジジィよ。夕方もかけてきたの。また文句言われるだけだし。」
「……朱冥だな。お前、尊の父親を口煩いジジィって……呪われるぞ。」
尊の居場所なら教えた筈だ。今度は一体何が気に入らないと言うのだろう。
そんなに気になるなら直接彼に聞けば良いものを…。姑息な事ばかりするから息子に嫌われるんだ。次に直接会った時は開口一番に文句をぶつけてやろうと思う。
この時、尊の身に起こっていた出来事と、朱冥の電話の用件が何だったのかはまた別の話で明らかとなる。
結局この後、冬真は二時まで盗聴に付き合い、何の収穫も得られないまま浩子を残して帰って行った。
だからと言って、彼を責める事等しないが、これから一人で盗聴を続ける事に関しては良い気にならない。帰り際、多少無愛想に接してしまったかもしれない。まあ、誰に対しても普段から友好的では無いのだが。
別に面倒臭い訳ではないのだ。
ただ、兄の事を思い出した後だけに、一人でいると良くない事ばかりを考えてしまいそうで嫌なだけ。
八代の言う通り、自分は寂しい人間だと思う。しかし今更変わろうとは思わない。本当の自分等、とうに見失ってしまっていた。
今、盗聴器から聞こえるのは大きないびきのみ。多分、篠原だろう。立間だとは思いたくない。
研究室も無音、彼女も寝ているなら盗聴する必要等無いが念の為に耳に流さなければならない。
そうして、この長い夜は明けて行った。
朝八時、出勤して来た皐月と変わり、浩子は夕刻まで休息を取る為に帰宅した。もちろん、没収したゲーム機も持ち帰りしばらくは戸棚で寝かせる。それについて皐月にあからさまに嫌な顔をされたが、悪いのは彼等なのだから自業自得だ。
八代ももうじきCHMに潜入する筈。
今日もまた夕刻には集まる。普通に接すれば良い。冬真がフォローしてくれると言っていたし…、何も気にする事は無い。
――謝る事さえ出来ないのか…。
相変わらず、浩子の運転する車内ではやたらと騒がしい音楽が流れていた。
