株式会社「C8」





浩子は眠っている慎也を見つめながら涙を流していた。

先程まで生きていたんだ…彼と直接話がしたかっただろうに…。

彼が撃たれてすぐに出て来なかったのは、仇である戸羽信孝を確実に仕留める為…。すぐにでも慎也の元に駆け付けたかった筈なのに。精神年齢の幼かった浩子は、こんなに冷静に物事を考えられただろうか?


涙を溢す目が、どこか冷めているのは何故だろう。



『………八代は?』


『九州。遊びに行ってる。この事は言ってない。』


『……言わない方が、良いだろうな。』


『っ…とりあえず、話は後にしよ……車、呼んであるから。』


『車?…誰の?』


『ほら、偽物の遺体を預けてた…。冬真の知り合いの人…。』


『………朱冥か…。』



倉庫の入口に車のヘッドライトの明かりが見える。

浩子は冬真を支えながら車に運び、慎也の遺体もきちんと供養してもらう為、持ち帰った。

浩子は倉庫では泣いていたが、それ以降涙を見せることは無かった。彼女が何を思ったかは分からない。

だが、慎也が雅を使って仲間を殺した事に関しては酷く絶望していた。いくら信孝に騙されていたとしても、彼等は仲間だったのだ。それを自分の家族が雅の気持ちを利用してまで手をかけてしまった。

雅でさえ、仲間よりも自分の気持ちを優先していたのだ。

浩子は、自分が思っていた「仲間」とはそんなに脆く儚い物だったのかと、呟いていた。


人は裏切る。

誰も信用しなければ…

誰とも深い関係にならなければ…

傷付くことは無いんだ。

恨むなら、慎也の弱さか、信孝の卑劣さか…

或いは…自分達の関係の脆さか…


この事件以来、浩子は変わった。


八代にも真実を伝える事は無く、後日お土産をぶら下げて帰ってきた彼を、二人は何事も無かったかのように暖かく迎えた。浩子には彼の親を殺してしまった罪悪感もあったのだと思う。


ただ、慎也が作った会社だけは形見として残したかった浩子は、場所を変えてメンバーを集める事から始めた。

冬真の傷も、知人の医者に治療してもらい今ではすっかり癒えている。彼は自分への忌ましめの為、浩子の側で彼女を支えて行こうと決めた。親友が作った会社だ、簡単には辞められない。


ボスを失った「アイアンメイデン」は、闇にひっそりと消え、以降彼等が活動していると言う話も聞かなくなった。