八代は彼女を見下ろしながら、どうしたものかと考える。
盗聴器は録音モードにしてある為問題無い。
――でもまァ、今回は俺が悪い訳じゃね-しなァ。
付けっぱなしにしてあるテレビからは、ニュース原稿を読むアナウンサーの声が聞こえる。
相変わらず浩子の表情は見えない。
「……どうしたの?撃たないなら此方が撃つわよ。」
「馬鹿かお前は…。俺が撃つと思ってんのか?しかもこの体勢で良くそんな事が言えたもんだぜ…。」
「………ふっ…あんたは撃てない。」
「…あァ?……っ!?」
シュッとスーツの擦れる音がしたかと思えば、八代の拘束から逃れて距離を取る浩子。力技ではなく、八代が気を緩めた瞬間の隙をついた。
同時に、腰に忍ばせていた銃も引き抜いて二丁を構える。シルバーの銃口は真っ直ぐに八代を捕らえた。
「……お前、マジか。」
「何が。」
「本気かって聞いてんだよ。」
「……………。」
沈黙する浩子を前に、八代も銃口を彼女へ向ける……が、すぐに銃を持つ手を下ろした。
八代には彼女を撃つ事ができない。
仲間として当たり前だが、撃とうとするフリすら出来なかった。
――「差」ねェ…。
浩子は俯いており、目を合わす事もなく立っている。震えているように見えるのは気のせいだろうか。
カチャ…と浩子が構えている銃のストッパーが外れた音が響いた……
気がした。
しかし、それはこの部屋のドアが開く音だったようで、浩子は顔を上げ目線を八代の後ろへと向ける。
「浩子、銃を下ろせ。じゃないと銃口にメスをぶち込む。」
「………冬真。………言われなくとも下ろすわよ。」
低い声の主は八代の隣までやって来ると、チラリと視線を送り「馬鹿野郎」とだけ吐き捨てた。
スーツの上から白衣を羽織る男。若そうに見えてそうでもない。八代や浩子よりも年上だ。
他県で依頼を片付けて来た彼は、報告の為事務所に戻ったのだが何やら物騒な話し声が聞こえたので、外階段から聞き耳を立てていたのだ。
タイミングの良さに驚いている八代はすっかり今の状況を忘れていた。彼に睨まれている事にも抗議しない。
「お前等、自分が何やってんのか分かってるのか?…特に浩子!お前は俺等の雇い主だろ-が!信用を失うような事してどうする!?」
「………。」
彼の言葉に、浩子は何も答えなかった。
