立間が自宅に戻ったのは午後十時過ぎだった。会議が終わってから研究室に籠りっきりで発表原稿を仕上げていたが、今日の所は途中で切り上げたようだ。
やはり明日、彼女の言った通り少し残業すれば仕上がる。残業する時間にもよるが、黒野との接触は遅い時間帯になるだろう。
それにしても、この依頼が片付いたとして黒野は一体どうするのだろうか?殺さないにしても、野放しにするのは危ない気がする。
「…黒野、最終的にどうするんだよ?」
「さっきも言ったけど、殺すなよ。此方に被害が無い限りは直接手は出さない。」
「パーティー当日に持ち越しても会場で行動開始時に鉢合わせたら、此方の顔がバレるかもしれね-んだぞ?それでも野放しにすんのか?」
「だから計画には皐月がいる。皐月ならどう見ても子供だし、顔晒しても何も不信じゃ無い。黒野を妨害するならもって来いよ。」
「…分かってんのか?それじゃあ何かあった時に一番危ないのが皐月だ。」
「…あたしだって皐月にこんな事させたく無い。その為にあんたがいるんでしょ-が。立間を誘導したらすぐに八代の近くに戻るような手筈でしょ。もしそこであんたが黒野に睨まれでもしたら考えるけど…、でも黒野に構っていられるような時間は無い。パニックに紛れて逃げなきゃいけないんだから。」
浩子は睨むように八代を見ていたが、次の八代の発言で顔付きが変わる。
「血濡れは嫌だが、皐月に何かあったら俺は黒野を撃つからな。」
「………馬鹿ね、減給よ。だからあんたはいつまでたっても割り切れないの。皐月はまだ良い、子供だし。だけどあなたはあたしよりも大人でプロでしょう?」
珍しく浩子が挑発的な発言をしている事に八代は驚き、盗聴器のチェック所では無くなる。そして腹立たしさで頭に血が上って行くのが分かった。
浩子の表情は酷く冷たい。この表情を彼は知らない。
「何が言いテェんだ…殺人鬼。」
「……………………八代。」
カチ…。
八代は真っ直ぐに向かいのソファーに座っている浩子を見ていた。
しかし今、彼女は視界から消えている。
――何が起こったんだ…?
浩子の自分の名を呼ぶ声がすぐ後ろでしたと思えば、耳元で聞き慣れた金属音がしたと同時に八代のこめかみに冷たく固い物が触れた。
