株式会社「C8」






第一研究室へ戻ると橘も含め、研究員達がホワイトボードや会議に使う物を会議室へと運び出している最中だった。

どの研究員達の表情は暗い。

ただ、プロジェクターを運び出そうとしている立間の表情だけは生き生きとしていた。

会議の内容は、学会で発表をする上での彼等(研究員達)の役割を決めるのだとか。ライトやプロジェクターの進行等。立間が原稿を読み上げる際の引き立て役が彼等なのだ。

八代は先程のラットが入っているゲージの側で餌を小分けにしつつ、立間のパソコンを確認する。会議では使わないらしく、彼女がそれを運び出す様子は無かった。

立間は自分より年上の部下にあれやこれやと指示を出し、もたつく橘に向かって小言を漏らしている。その様子を横目に浩子の姿が脳裏に浮かんだのは八代だけの秘密。



「裕也くん、ラットの世話終わったら今日は帰っても良いわよ!お疲れ様!」


「はい、希美さんも無理しないで下さいね。」


「ふふっ、優しいのね。それじゃあまた明日。」



あからさまな態度の変化に他の研究員は、八代にジロジロと視線をぶつけながら研究室を出て行く。

そして八代は、彼を残して全員が会議室へ移動したことを確認すると、ゲージに餌をぶち込み、立間のパソコンを立ち上げた。

皐月のメモを見ながらパスワードを入力し、データベースにアクセスする。フォルダから新薬に関するデータを見つけると素早くプロテクトをかけた。皐月考案の、特定のデータを外部操作から守る電子ブロック機能。立間がこのパソコンを触ったとしても彼女からは何の異常も感じられない様になっている。これで外部操作によるデータの抜き取りは不可能だ。

廊下に人の気配が無いかを気にしながら、作業は三十分程度で終わった。

八代は何事も無かったかのようにパソコンをシャットダウンし更衣室へと移動した。

白衣を脱ぎ、CHM出勤用のスーツに着替える。スーツの胸ポケットからタバコを取り出すが、中身は空。小さく舌打ちをして空箱を更衣室内のゴミ箱へ放り投げた。

八代はモヤモヤしていた。

午前中の橘の事だ。これは早く事務所に戻って皐月にぶちまけるに限る。その前にダミーのパソコンを用意しなければならないが…。

八代は鞄を手に、CHMを出た。