株式会社「C8」





橘は今までずっと副室長として、彼女のパシりをやらされて来たらしい。会社を辞めようにも、僅かに残ったプライドがそれを許さなかったのだ。

だが、また別の被害者が出て同じような目に合っているのを目の当たりにし、流石にもう無理だと思ったのだとか。



「で、僕が何を言いたいのかって、彼女の事は諦めろって事!君はまだ若い、これからなんだよ。それをあの女に利用されるなんて事、あっちゃ駄目だ。だから、彼女の容姿に惑わされてはいけない。」



八代は酷く胸を痛めた。自分も少なからず彼を騙しているのに、それに気付かない橘は可愛い後輩に自分と同じような目に合って欲しく無いと悲痛な思いで訴えている。



「君は四日間の助っ人だし、第三研究室の人間だ。もう居なくなる僕からは何も教えてあげられないから、これくらいしか助言できないけど…。」



はっきり言って、どう言葉を返して良いか分からない。今回の依頼主である加藤学のように、彼女に復讐してやろうとは思わないのだろうか。八代が素直にそう問い掛けたら、


「当初は悔しかったけど、僕には人を恨むだなんて事出来ないから。」


と、彼は優しく笑うだけだった。

一体、どれだけお人好しなのだろう。騙す側はもちろん悪いが、騙される側もこんなんじゃあ標的にされても仕方ない。



「お気遣い頂いて、ありがとうございます…。」


「良いの良いの!とりあえず、早く終わらせよう。」



橘は、すっかり手が止まった八代を急かすように声のトーンを上げた。彼の声に、八代は慌てて雑巾をバケツの中の水に浸す。

出来ることなら、今すぐ橘に詫びて、この場から立ち去りたい。仕事柄、こう言った性格の人間とは関わりたく無くなる。自分が浅ましく、恥ずかしい人間だと思えてしまうのだ。

そんなもの馴れてしまえば断ち切れる、と浩子は言うが八代はそんなに強くなかった。皐月も同じだ。だから二人は仲が良い。お互いが抱える思いを理解できる。年は関係ない。

八代はまだ汚れてもいない真っ白な雑巾でホコリまみれの棚を拭き始めた。