辛うじて窓のサンに手が届いた。しかし、開けるにはまだ背が足りない。辺りを見回して使えそうな物は無いか目を凝らす。
「バケツ…」
暗闇をペンライトで照らすと棚の下に置いてある青いバケツが目に入った。裏にして踏み台にすればなんとかなるかもしれない。
浩子はすぐに降り、バケツを片手に再び棚へ飛び乗る。だが、今度は先程よりも大きな音が出てしまった。
タッタッタッ…
すると備品庫の外から足音が聞こえてきた。どうやら物音に気付いたようだ。足音は走っているのか、テンポが早い。
焦った浩子はバケツの上に乗り、窓を開けようと手を伸ばした。
「ヤバい、……くっ……届けぇ…っ!」
ガラッ!
ガチャ!
「誰だっ!!」
備品庫に飛び込んで来た警備員はすぐに明かりのスイッチを押す。暗闇はかき消され、電光が倉庫内を照らした。
「…………。」
中には誰もいない。備品が置いてある棚の通りを一つ一つ見ていくが、物音の正体を確認することは出来なかった。
男は気温の変化を感じ、ふと上を見上げる。窓が開いていた。そこから生暖かい風が吹き込んで来るのだ。
棚の上に不自然な形で置かれたバケツ…。男は狐目を吊り上げてその棚へ近付く。
「……逃がしたか。」
男の腕時計の針は午前四時丁度を指していた。
―――――――――――
無事、ハトヤマから脱出した浩子は残った体力で出来る限りの全力疾走をした。追手は居ないが、少し怖かった。
自分の車へ飛び乗り、エンジンをかける。突如スピーカーから爆音で音楽が流れ出し、驚いて飛び上がってしまった。こんな姿誰にも見せたくない。上がった呼吸を整えることもしないで車を発信させ、事務所へ急ぐ。全身汗だくだった。
『大丈夫ですか…?』
「…………。」
『………おーい!』
「…………。」
自分の見知った道まで来て、漸く安堵のため息を漏らす浩子。
もうすぐ午前五時。明け方の空は薄明るい。
皐月の声に答える元気は無い為フルシカトの後、だんだん鬱陶しくなり回線を切った。
