人事部へ侵入すると、最初に入った販売部と同じ位置に監視カメラが設置してあった。うまく死角をついて進み、一番大きなデスクの前に屈む。
皐月の合図で一番下の引き出しを開け、社員リストを調べて行く。
『………どうですか?』
ペンライトの明かりを頼りに、リストを確認する。この中にある筈……。
だが……
「無いっ!」
『えっ?…本当に?』
「無い、黒野は秘書なの?」
『………そこに無いのならそうなのでしょうが、意外ですね。』
信じられず、二回確認したがやはり無い。やがて一分が経ってしまい、素早くデスクから離れる。
黒野は秘書…。てっきり普通の社員だと思い込んでいた。新薬のデータを狙っている事から、研究員か開発部かと推測していたのだ。それどころか人事部でも無かった。予想はことごとく外れた。
ともかく、人事部を出て秘書室へと向かう。
秘書室は十三階フロアの一番奥にある。木製の扉をそっと開けると監視カメラは一台も無かった。
大きめのデスクが四つ。一番奥の秘書室長と書いたプレートが置いてあるデスクを調べる。一番下の引き出しにはファイルに挟まれた四枚の秘書リストがあった。
「…………。」
『………浩子さん?』
四枚のリストを確認する事等、十秒もあれば事足りる筈。しかし浩子は一向に口を開こうとはしない。
不審に思った皐月は浩子の名を呼び掛ける。
『浩子さん!どうしたんですかっ?』
しばらくしてから漸く声を発したが、それは予想外の物だった。
「無いの。」
『は?』
「だから、黒野京介のリストが無い。」
『!?、何を……。じゃあ、彼は僕達の行動を読んで先に回収していたって事ですかっ?』
確かに全ての部所は回った。リストのチェックも確実だった。しかし「黒野京介」の社員リストはどこにも無かったのだ。
彼が自分達の行動を先読みしたとは考えにくい。彼は此方をハッカーだと思っている筈だ。だから社内に侵入する事等…予想できる訳がない。
なら、何故彼の社員リストが無い?
おかしい。彼は確かにハトヤマのパソコンからハッキングをしていた。ハトヤマ社はCHMと違って、一般人の出入りを許可していない。外部の人間とは考えられない。
否、もしも八代のようにして社内に侵入していたら…。
それは無い。確かに名義は「黒野京介」だったのだから。
