二階には戻りたく無いので、申し訳ないが依頼遂行中の尊のパソコンを拝借する。
専用の電子機器が無いが、短時間で終わらせるなら問題は無いだろう。ハッキングに使用するUSBはポケットに入っている。
「神城さん、パソコン借りま-す。」
流石はハッカー。尊のパスワードは把握済みだった。もちろん悪用なんてした事は無い。こういった時の為に知り得ているだけだ。……多分。
程なくして皐月はハトヤマのセキュリティ状況を全てチェックし終わった。
以前、ハトヤマ社関連で依頼を受けた時に使った社内の見取り図が書類庫に残っていたので、それをスキャンしてパソコンに取り込む。浩子に発信器を持たせ回線を繋げば、スキャンした社内地図のどこを進んでいるのかが分かるという寸法だ。
準備は出来た。
皐月は浩子を揺すり起こす。
「浩子さん、起きて下さい。ミッションスタートですよ。」
彼女の寝起きは毎回最悪だ。
悪態をつき、チンピラのような目付きで人を睨む。もっと酷ければ殴られもする。それを宥めるのはいつも尊と皐月。
いつものように優しく起こし、八代の報告を伝える。
「……だいぶ寝てたのね。ごめんなさい、皐月も依頼終わってすぐこっちに合流して休んで無いのに。」
「それはお互い様じゃないですか。」
浩子はすぐに準備を始めた。発信器を胸ポケットに忍ばせ、無線機で会話をしやすくする為に耳から口元にマイクを掛ける。そしてものの十分で見取り図を頭に叩き込んだ。
誘導は皐月に任せ、黒野の部所が分からない為面倒だが各部所をしらみ潰しに当たるしか無い。
事務所からハトヤマ本社まで車で約一時間はかかる。浩子は後の事を皐月に任せ、事務所を出た。
車を停めてあるパーキングまで走る。
今から向かって本社に着く頃には午前一時を回っているだろう。皐月には早く休んで貰いたい。
念のため、慣れた手付きで愛車のナンバープレートを張り替えた後ハトヤマ本社まで車を走らせた。
深夜の街は、東京の顔をよく物語っていると思う。街灯の明かり等必要無いくらいに人間の欲望や思惑がギラギラと鈍い光を放っている。
それをかき消すかの様に、走行中の車内は名前も知らないロックバンドの曲が大音量で流れていた。
