「なァ眼鏡、この糞社長ぶちのめしても良いか?」
「だめだよ、八代。浩子さんにはこれからハトヤマに潜入してもらうんだから。」
八代が事務所に戻ったのは十時半。ソファーで爆睡中の浩子を見るなり、八代は沸き上がるイライラを素直に口にした。
「減給だ糞社長!」と彼女を叩き起こそうとする八代を皐月が面倒臭そうに止める。
「止めるな眼鏡っ、俺は今日一日地獄のような時間を過ごしたんだ!それなのにこの野郎っ…!」
「はいはい、ご苦労様。僕に報告が終わったら今日はもう帰って良いって浩子さんからの伝言だよ。」
「!!、そ、そうか…それならまぁ…。」
単純だなぁ…と、皐月は苦笑いを浮かべながら盗聴していたものの、一応八代の話を聞く。
立間希美と八代はCHM本社を出た後、八代の愛車で適当に都内をドライブし海岸の方へ向かった。海沿いに車を止め、車内で会話をしていたらしい。外に出ようにも、後ろから彼女のSPが追跡して来ていた為に彼女からそうしたいと申し出たのだ。
そこからさりげなくSPの事に触れると、彼女は出勤時と帰宅時、それにプライベートでの外出時には必ず付き添わせると話した。簡単に吐いた事に拍子抜け。何のためのSPなのやら。
そしてそのSPは六日後の誕生日パーティーにも付き添わせるが、それについては彼女はあまり面白く無さそうだった。
『裕也君もCHMの社員なんだから出席するでしょ?華やかな場で黒スーツ着たSPなんてちょっとアレじゃない。良かったらあなたSPの変わりしてくれない?もちろん報酬出すわよ♪』
これは思ってもない申し出だった。例え社長の愛人でも、SPと言う事にしておけば何も文句は無いだろう。それに、彼女を自由に誘導出来る。まさに一石二鳥。
快く応じた八代に、彼女は喜んだ。
しかし、これは計画通りに進んだ場合に実行する手段。それよりも早く彼女を殺害する可能性もある。
そして、後は興味のあるフリをして研究資料の進み具合を聞き出した。どうやらあと二日もあれば学会で発表する原稿は仕上がるらしい。
後は他愛の無い世間話。彼女の気が済むまでそれは続いた。
