それからしばらくして浩子が事務所へ戻って来た。時刻は八時過ぎ。流石に暑いということで、二人は三階へ移動する。
「皐月、暑いからって脱ぐなバカ。ビックリしたでしょ!」
「すみません、もう何か色々干からびるかと思いましたよ。」
「ふぅん、で?この二時間の間に何かあった?」
「あ、はい。それがですね…ちょっと良くない方向に…。」
皐月は自分の意見も織り混ぜながら全てを話した。指示された通りに、研究データの保護が出来なかった事に関しては「減給」と叱咤されてしまったがそれなりに得る物はあった。
コードから判明した名義「くろのきょうすけ」、恐らくそれが「kuro」の本名。
「確かに、向こうがパソコンの個別コードから名義がバレたと分かっているなら、ハトヤマ本社の管理システムへハッキングするのは危ないわね。奴は手を打っている筈だし。」
「はい。これはもう浩子さんに直接潜入してもらって彼の履歴書なりなんなりを拝借してもらうしかありません。」
「チッ…部所も分かってないのに簡単に言ってくれる。」
「ほんとごめんなさい。でも、ハトヤマが契約しているセキュリティ会社はCHMと同じ所なのである程度はお手伝いできますよ。」
「そんなの当たり前。八代が帰って来て報告を受けたらすぐやるわよ。」
それから…と、皐月はガーデンホテルの見取り図にセキュリティやパーティー当日の警備状況を記入した物を手渡す。
浩子はそれを受け取るが表情は固い。
先程も解説したが、「くろのきょうすけ」に共犯者がいた場合、こちらの存在が感付かれてしまった以上、研究データを奪えばすぐにターゲットを殺害されてしまう可能性が高いからだ。
共犯者がいるか、いないかを早急に調べなければならない。
しかしどうやって……
彼のプロフィールを調べたところで分かる事では無い。此方から何か仕掛けてみるしか…。
「仕方ない、少し八代に頼むか。」
「何をですか?」
浩子の考えはこうだ。
まず、明日八代に立間希美のパソコンから直接研究データを保護してもらう。
そして、彼女から「学会に向けての準備は整った」と言うような内容の話を聞き出した時、「kuro」はすぐに彼女のパソコンにハッキングし、研究データを奪おうとする筈。
しかし、プロテクトされたデータには手を出せない。
