株式会社「C8」





立間希美の交際相手ということで、男だと言うことは分かっている。そして、篠原が自宅にいることを分かっていた為に外部からデータを抜き取ったのだ。所詮、目的は新薬の情報。立間希美も「kuro」も、似た者同士じゃないか。彼も彼女の事を調べ尽くしている。

彼は大手企業に勤めるハッカー。そして立間希美を殺害しようとしている。
一日目で把握した情報の範囲でも、この計画的な行動は素人では無いような気もするが、あまり憶測ばかりしていても意味が無い。


カタカタカタ…


不規則な数列をコード化し入力して行く。フィボナッチ数列を使った、知識が無ければ分からないような仕掛け。強化バリケードも破壊コードを弾き出して突破する。

残り11分20秒。

電子記号の解読から少しずつ浮かび上がってくるヒントによって、パスワードは六桁のアルファベットだと言うことまでは分かった。

そして最初の文字は「z」。
最後の文字は「n」

奴が仕掛けた二重ロックだ。何かしらの意味があるのだろう。



「……。」



罠の難易度は高いが、パスワードの文字が比較的ポンポンと見つかるのはいささか不自然にも感じる。しかしタイムリミットは近付いてくる。考えている暇は無い。


「a」

「n」


カタカタカタ…
カタカタカタ…


皐月の脳にあるのは迷路。そして角を曲がる度にある謎。その答えを導きながら奥へ奥へと進んで行く。


あと二文字。

残り8分52秒。


「kuro」はこれを見ているのだろうか?
見ているならば、何を思って見ているのだろう…。ミスはしていないので此方の電波は読み取れない…しくじれば良いと願ってでもいるだろうか?

それとも…罠という掌で転がる皐月に悪どい笑みを浮かべているのか。


「n」

残り6分。


「次でラストだ。」



皐月は時間内にパスワードを発見できそうでほっとした。キーボードを叩く指は最初からずっと同じ早さで音を刻んでいた。

パスワードを入力したら、即座に新薬に関するデータをプロテクトしなければ。立間希美を殺すのは此方だ。そして、データは学の元へ戻り彼は無事、学会での発表を終えるのだ。


カタカタカタ…
カタカタカタ…


「e」


「よし!見つけた。これで…………。」





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