株式会社「C8」





一歩遅かった。立間が自分で設定した物では無い。ハッキング防止用のパスワード。外部アクセス時にしか表示されないようになっている。



「……やってくれたね。」



パスワードが分からない事には中を確認することは愚か、トラップも仕掛けられない。探し出そうにも下手に動けば「kuro」の罠に掛かるのは明白だった。

ハッカー同士、考える事は同じ。

さて、敢えて罠に掛かる覚悟でパスワードを探し出すか、またはデータベースや管理システムのサーバーにある電子回路の毛細血管から「隙間」を辿って彼女のパソコンにハッキングするか…。

二つに一つ。

前者のリスクは「kuro」に居場所を特定される恐れがある事。後者のリスクは膨大な時間がかかり、道を誤ればCHMのセキュリティシステムから通報され警察の標的に。まぁ、どちらも同じという事だ。

ならば、ここは同じハッカーとして挑戦状を受け取りたい。

気休めに、ダミーとして名義と電波による位置情報を書き換えておく。



「勝負、してあげるよ…。」



カチッ。皐月が作ったパスワード捜索専用のUSBをセットし、二重ロックのページ上に新たなウィンドウを立ち上げる。

そして、侵入したシステムサーバーのコードを入力しEnterキーを叩いた。

画面が先程と同じように真っ暗に変わり複雑な英字コードが並ぶ。即座に必要なコードを入力しながら二重ロックのパスワードを捜索する。



「……凄いな、まるで迷路だ。」



回路が複雑な上に、パスワードのヒントが電子記号に変換されていた。奇妙な数列も羅列している。


カタカタカタ…


罠があるとは予想していたが、全てが罠になっているとは思わなかった。これは少々厄介だ。おまけにタイムリミットまで設定されているらしく、ご親切に画面の右上に「残り14分37秒」と表示されカウントが始まっている。

ハトヤマの社員のくせに、ここまでできる奴なのか。こんな形で出会いたくは無かった。


カタカタカタ…


何とか先に進みながらも、速度は相変わらず早い。皐月のこの腕は全て独学によって得た物だが、すでにプロの域を越えている。その皐月が苦戦を強いられる相手…。

一体、「kuro」とは何者なんだ…?