株式会社「C8」





一人事務所に残った皐月は八代に無線機を通してコッソリと事情を伝えた。八代は立間と会話しているようで返答は無かったがちゃんと伝わっている筈だ。



「……この依頼が片付いたら本当エアコン修理してもらおう。死ぬ…。」



「C8」では依頼遂行中以外、皆黒スーツ着用が義務付けられている。おかげで皐月は汗だくだ。耐えきれず、ネクタイを外し、シャツを脱ぎ捨て上半身をさらけ出した。


カタカタカタ…


先程まで辿っていた電波回路から脱出し、目的であるCHM本社の全てのデータを管理しているシステムサーバーへアクセスする。

アクセスコードを弾き出し、入り口を突破。今の所、異常は無い。セキュリティ会社程の難易度は無く、これなら簡単に中枢へたどり着けそうだ。

多少邪魔をしてくるバリケードを素早く破壊しながら、皐月は余裕の笑みを浮かべた。



「…なぁんだ、CHMってこんなガード薄いんだね。」



カタカタカタ…
カタカタカタ…


八代とは比べ物にならないようなスピードで進み、真っ暗な画面に緑色のコードが打ち込まれて表示されて行く。

そしてあっという間に中枢へ辿り着く。

此所から各部署に別れて分岐が続く。迷わず研究·開発部のルートへ。そこから更に全研究室の情報管理システムを経由して、第一研究室個別情報のデータベースに侵入する。

第一研究室のパソコンは全部で十台。

データベースから各パソコンのパスワードを入手し、一台一台チェックして行く。


カタカタカタ…


各研究員専用のパソコンみたいだが、その中から立間希美の物を探し出す。



「……!」



十台目、最後のパソコン。

九台までの全てに新薬に関するデータは無く、名義も他の社員の物だった為これが立間のパソコンである筈なのだが…。



「二重ロック!」



データベースから入手したパスワードとは別のパスワードを入力する必要があった。



「何で二重ロックなんか…。」



学からの妨害を防ぐ為だろうか?否、それなら一つのパスワードだけでも充分。

何故、こんなに用心深く…。



「『kuro』は此方の存在に気付いているのか?」



そうだとしたら、八代が作動させてしまったあのトラップ…。

「kuro」が気付いたならあの時しかない。良く考えれば相手はハッカーなのだ。自分の獲物(研究データ)を黙って待っているだけの訳が無い。