「…これは、八代の情報待ちですね。それともハトヤマの社員データ片っ端から調べますか?」
「いや……、八代からの連絡を待つ。」
「立間希美が自宅に戻り、パソコンを確認すれば何のデータが無くなっていたのかも盗聴器を通して分かるかもしれません。」
今の所、仕掛けた盗聴器からは有益な情報は漏れて来ない。此方にもする事はあるし、大手企業の社員全員のリストを確認していれば朝になる。それに、浩子は早く自宅に帰って休みたかったのだ。
「皐月、…少し逆の場合で考えよう。もし交際相手の中にいないとしたら?」
「え…。」
「抜き取られていたデータ。あれが立間希美の指示の元で抜き取られていたとしたら?」
「待って下さい。いくらなんでも、自宅のプライベートで使うパソコンにハッキングなんてさせないですよ。ハッキングすれば目的のデータだけでなく全ての情報が筒抜けになるんですから。」
「kuro」の目的が分からない以上、全てが憶測となる。交際相手だという確証も無いのだ。まず、「kuro」が立間希美にとって敵か味方かも分からない。敵だった場合、抜き取られていたデータがCHMに関するデータだったとして、ハトヤマの社員だという事実を隠して彼女に近付いたという裏付けになる。研究長に近付けば、現在どのような開発が成されているのかを探る事ができるので面識はある筈だ。彼女の自宅には篠原がいる。もしそれを知っていたなら外部操作による抜き取りが効率の良い方法。
そして、皐月の言う通り立間希美の指示によるデータ抜き取りは考えにくい。
ということは……彼女にとって、敵?
待て、何か…
何か見落として……
彼女は研究長。
抜き取られていたデータ。
CHMのライバル企業。
彼女に近付いた目的。
「っ!!……皐月!抜き取られていたデータだけど…もしかして、学会で発表する新薬に関する物なんじゃ……。」
「!……、確かにっ…辻褄が合いますね。彼女に近付いてさりげなく情報を得ていたのでしょう。やはり交際相手の中にいる筈です!」
何か嫌な予感がする。仕事柄分かるようになった事だが、こうして必要なデータを全て得ることができたら…残された情報源は邪魔な存在になる。そして大概それは、この世から抹殺されるのだ。
