一方、「C8」の事務所では浩子と皐月が二階で作業をしていた。
「浩子さん、エアコン直して下さいよ。」
「うん、八代に頼みなさい。」
皐月はサボりと言う名の夏休み中。本来なら進学校の受験生なので夏休みなんてある筈無いのだが、彼はすでにAO入試にて第一希望の大学の内定が決まっているのだ。
そして、絶賛夏バテ中でもある。
三階ならエアコンがあるが、彼が使うパソコンや通信機等全て此処にある為移動出来ない。おまけに電気熱も加わり、暑さでおかしくなった彼は世界の破滅さえ感じていた。
「浩子さん、浩子さん。」
「うん。八代に頼みなさい。」
「浩子さん、僕、暑くて死にます。」
「うん。八代に頼みなさいね。」
「………!!……浩子さんっ!」
「だから八代に頼みなさいって。」
「いや、そうじゃなくて。妙な点が…。」
浩子は皐月の言葉に自分の作業を中断した。ガーデンホテルの見取り図を放り、皐月の背後に立つ。彼はパソコンの画面に映し出されている複雑な電波回路を見つめていた。浩子の気配を背中に感じた彼は、人差し指で画面の中のとある場所を指した。
「………hatoyama…ハトヤマ?」
「はい、製薬会社ハトヤマ。CHMのライバル企業です。「kuro」が経由したサーバーをもう一度見直してたんですけど…海外のサーバー以外で、日本のサーバーは全てハトヤマを媒体としている物でした。…妙じゃありませんか?」
「「kuro」はハトヤマの人間だと言うの?」
「可能性は高いです。」
だとしたら、立間希美の交際相手の中にハトヤマの社員がいる。それが「kuro」。
しかし、自社のライバル企業である人物と交際などするだろうか?下手をすれば自社の情報を漏らすことになる。彼女には研究長という確立された地位もあり、自社の情報を売ったり、自分の不利になるような事はしないだろう。
ならば、立間希美はその交際相手がハトヤマの社員だとは知らないという事…。
そして、抜き取られていたデータ。あれは一体何だ…?CHMの機密データなのか?
仮にハトヤマの社員だとしても、そいつはただの製薬会社の人間。専門知識が無い限りハッキング等出来る訳が無い。
