「kuro」…。
何故彼女のパソコンにまで…。
一体何のデータを…?
立間希美の味方か敵か…。
CHMの社内のセキュリティチェックが無くなったので、橘に電話する時間ができた。皐月にはその旨を伝え、自分達の作業に専念するように促した。
それにしても「kuro」という存在が気になる。あまりターゲットの周辺を彷徨かれると依頼遂行に支障をきたす場合もある。それに、ハッカーともなれば何かの拍子に自分達の存在がバレる可能性だって否定できない。
例えば、皐月や浩子がしたように電波回路を辿ってこちらの発信元が明かされるような事になれば…。
否、それは皐月がうまくやっている筈。
ただ、何が目的でこんな事をしているのか引っ掛かるのだ。
「何者なんだ……。」
そして、六日後の誕生日パーティー。此所で決める。失敗は許されない。大勢の出席者に紛れ、殺害する。八代も補佐はするが、きっと浩子ならうまく殺れるだろう。
それまでこの四日間。できるだけターゲットに関する情報を集め、何も問題の無いように体勢を整える。
「………しっかし、糞社長め。今月入っていくら減給すんだよ、バカたれが。」
どうでも良いが、今月八代が浩子から減給宣告されたのはこれで八回目。先月は月の半分は言われていた記憶がある。
しかし本当に減給することは無い。が、雑用は良く任される。俗に言う「パシリ」。
それを文句垂れながらも従う八代は、なんだかんだで浩子を尊敬しているのだ。年下の癖に妙に頼れる所や、きっちり筋を通す所は流石だと思う。普通あの年齢では難しいだろう。
「あ-あ、事務所戻りてぇ-なァ…。」
まぁ、そうも言ってられないので一旦車から降りる。偽のナンバープレートを取り付けてある愛車には、これから不快な物を乗せなければならない。しかも助手席に。
恋愛沙汰は別のメンバーが専門に受けている依頼。奇抜なチャラ男が頭に浮かんだ。彼もまた、何件もの依頼を掛け持ちしていていつも忙しい。
こういう事なら何かアドバイスでも貰っておけば良かったと、少しだけ後悔した。
