株式会社「C8」





それからしばらく会話をした後、「dear」から出た二人は再び第一研究室へ戻った。今の所、八代は不快な思いしかしていない。手始めにすぎない世間話からは特に何も得られなかった。

ただ、少しだけ二十日の話が出た。学会の事だ。今日は十三日の土曜日だが、学会が近い為に土日、祝日返上で研究資料をまとめなければならないと嘆いていたのだ。

それで他のことに手が回らない為、助っ人を頼んだのだとか。これに関しては浩子がうまくやってくれたみたいだが、恐らくは依頼者の学と手を組んで小細工したのだろう。

そして、彼女は言った。

自分の研究がうまくいった。認められた。発表が楽しみだ…と。

つくづく最低だと思う。その全ては学の物だと言うのに。どこまでズル賢い女なのだろう。CHMの社長にさえ同情する。彼もまた、ただのカモなのだから。



「裕也君、悪いんだけど研究室の中片付けてもらえる?私は発表原稿を仕上げなくちゃいけないから。」


「分かりました、すぐ取り掛かります。」



八代は散らかった机を一つ一つ片付けるフリをしながら、立間のデスク付近に盗聴器を取り付けた。後は彼女の白衣に仕込むだけ…。

どのように近付くか少し考えながら散らばったファイルをまとめる。八代の隣では、橘が神妙な顔付きで試験管の中の液体とにらめっこをしていた。


依頼者の学は出勤しているのだろうか?

CHMは月曜~土曜勤務が通常になっている。その代わり、有休は月に三回自由に取れる仕組みだ。故に、通常ならば出勤している筈だが彼はデマの噂を流され、室長にも関わらず酷い扱いを受けているようだった。それに昨日事務所に来た時は凄くやつれていた。

大丈夫だと良いのだが、社内で顔を合わせることはできない。ターゲットに感付かれるのは避けたい。

大金を出して貰ってるので、自分が出来る事は全て依頼者の為にやること。社長にはそう強く言われてきた。そうして染み付いた物は、依頼者への「お節介」と言う名の自分には似合わない物だった。

まあ、彼は立間希美への復讐を望んでいてそれを代行して欲しいと言っていただけなのだが。