株式会社「C8」






さて、大事なファーストコンタクト。

本来ならヘドを吐き捨てたくなるような相手と親密にならなければならない。仕事は仕事。依頼は依頼。三億は三億。

八代は静かに彼女へ近付いた。



「…研究長、お疲れ様です。第三研究室から助っ人に来た桜井です。」



急に声を掛けた為、少し驚いたように肩を震わせる彼女。すぐにターゲットは手を止めて此方を向いた。

香水の匂いがキツい。

彼女は八代の全身を下から上に舐めるように見る。「桜井君…ふぅん。」とニヒルな笑みを浮かべて手を差し出して来た。



「研究長及び第一研究室室長の立間希美です。第三研究室の新人さんだったかしら?まぁ、仲良くしましょう…ね?」


「よろしくお願いします、研究長。」


「嫌ねぇ、「希美さん」でいいわよ。」



八代は全身に鳥肌が立つのを感じながら彼女の手を取った。酷い吐き気もする。

まあ、彼女の反応を見る限りでは掴みは悪くない。むしろ上出来。欲に餓えた女の目を此方に向けてくる。



――おいおい、四日間はキツいぞ…



それから無事に室内の研究員に挨拶を済ませたところで昼休憩を知らせる社内チャイムが流れた。研究室にいた研究員は皆早々に食堂へ移動する。

八代も立間に誘われ、同じように食堂へと向かった。

二十七階建てのCHMには、社員食堂が九階、十五階、二十四階にあり、二階と十八階、二十三階にはカフェテリアもある。シャワールームや売店等もあって、大手企業ともなれば設備も一般企業とは違うようだ。

あまり人目につきたく無い八代は、一般人の為に開放されている二階のカフェテリアが良いと立間に提案する。彼女はそれをあっさりと快諾し、二人はエレベーターで二階へと降りた。


「dear」という名前のカフェテリア。お洒落な内装に本当に社内なのかと目を疑った。一見バーのようにも思える空間は、クラッシックの心地良い音に満たされて落ち着いている。

これが依頼でなければ、八代の行き着けになっていただろう。

適当に二人用の席につき、メニューを広げた。すぐに店員が水の入ったグラスを持って来る。

一般人や他の社員の姿がほとんど無いのは何故だろうか。八代の心中を察したのか、立間はコッソリ「ここ、高いのよ。」と耳打ちをした。