株式会社「C8」






「!、……久さ…か…部…さん?」



次第に鮮明になる意識の中、気配の主は夏芽のものだと分かったが、この禍々しい怨念や殺気は先程までの彼女からは感じられなかったものだ。



『………憎ィイ…』


「っ!!」



鼓膜に響いた声は恐ろしいものでとても彼女のものとは思えない。その声は脳内にまで浸透し尊の判断を鈍らせる。普段ならこの程度の金縛りなど簡単に…、


――!?……思い出せない…


しかし、いつも通りの対処をしようと記憶を起こしてみたけれど、どういう訳か最近、否、もう随分と前から尊は霊障を受けていない為、突然の金縛りに対応出来ずパニックに陥ってしまった。



『…………神城ノ子…』



必死にもがいても無駄に体力だけが奪われる。手首が千切れてしまいそうな感覚に呻くような声しか出せないのがもどかしい。



「………っ」



そして、状況は悪化の一途を辿る。

冷静な判断が出来なくなってしまった尊へ追い討ちをかけるように、手首を締め付けていた数珠がバチンと大きな音を立て弾け飛んだ。ばらばらと床の上に散らばる数珠に視線を向ける。バラけたものが勝手に元に戻る事などあり得ないが、尊は藁にもすがる思いでそれを願った。何故なら、彼を守るものはもう何もない。悪しきモノを近付かせない為四隅に貼った札が真っ二つに切り裂かれている事から、ベッドの下に貼り付けた札も同じく役目を果たせない状態なのだろう。力の無い彼女の仕業だとは思えないけれど、今の彼女が放つ邪気は上級霊そのものだ。このままでは他の霊まで呼び込んでしまう。

数珠も護符もボストンバックの中にあるが動けなければそれらもまるで用を成さない。

不気味に笑いながらゆらゆらと近付いて来る黒い『彼女』が視界に入った。

ドクンドクンと心臓が暴れ、室内の空気が非常に重く感じる。

彼女が自分に近付くにつれてあまりの殺気に嘔吐感が込み上げ、久方ぶりの恐怖に尊はただ呼吸を荒げるのみ。硬直した身体が悲鳴を上げるかの如く危険を訴えているのに――。

何故突然自分に憎しみや恨みの念を向けて来るのか、何故『神城の子』と知った風に呼ぶのか、彼女は本当に夏芽なのか、疑問は尽きないのだが今の尊にはそこまで考えていられる余裕は無かった。



「………っ!」



ギシ…

ベッドの上、足元でスプリングが不協和音を奏でるかのようにきしんだ。