明日、彼女が亡くなった現場へ向かう。未だそこに蔓延る残留思念を汲み取り、その時の記憶だけを彼女の精神に『戻す』事でどのみち自殺した事は思い出す筈だ。
自殺の理由までは分からなくとも、その場で取り戻した記憶の分の負の感情は浄化しなければならない。負の感情を放置していれば他の霊が引寄せられ彼女自身は無意識であっても、それらを取り込む助長となってしまう。
「貴女を悪霊にしてしまう訳にはいきません。くれぐれも他の霊からの接触は避けるように。この室内は結界を張ってあるので問題ありませんが、外に出る場合は決して私から離れないで下さい」
「…はい。でも、わ、…私、悪霊になってしまったら…どうなっちゃうんですか?」
夏芽は不安気な面持ちで尋ねた。
彼女自身、まだ亡くなってから日が浅い。自分が霊である事は理解出来ている様子だが由姫乙の家に着くまでの道中、それはもう挙動不審な態度だった。キョロキョロと辺りを窺い落ち着きが無く、其処らにいた浮遊霊を見ては怯えていたのだ。
オカルト好きならまだしも、ただの一般人には知識が無くて当然の事。亡くなって霊になったからと言っておまけのように知識が付いてくる訳でもない。
尊は、少し脅かしすぎてしまったかと申し訳なく思ったが事実を曲げて伝えるのも意に反する。専門的な用語を使っても理解は難しいだろう。
「貴女のような力の無い低級霊は、他の霊に取り込まれてしまうか、悪霊になってしまっても負の感情によって自分を失ってしまうでしょう。…悪霊となった場合、未練を晴らして差し上げること無く、即刻強制的な供養を行いますが…そうなると来世に多大な影響が出てしまいます」
「………自分じゃなくなる?」
噛み砕いて説明してみたものの、彼女の困惑した表情を見る限りやはり全てを飲み込むには知識が足りなかった様だ。
根気よく、霊に関する基礎知識を加え数回程説明を繰り返すと漸く頷いて貰えたが、その頃には時刻は既に零時を指していた。
彼女にはまだ確認しておきたい事があったのだが、そろそろ休まなければ明日に響くと判断した尊は、話を切り上げ軽くシャワーを浴びた後、眠りについた。
寝る前にやたらとランプが点滅している携帯を確認したが、父からの着信が六十件もあった事にいつもの事ながら肩を落とした。
