株式会社「C8」





「……そうですわね、これでも私は有名人ですもの。夜切様とは頻繁に連絡を取り合っていますけど、月末まで事務所には顔を出せそうにないですわ」


「社長と個人的に連絡のやり取りを?…これは珍しい」


「ええ、依頼を言付けて貰ってその報告をしたり…。そう言えば、依頼の報告書が溜まっていますの。神城、貴方の仕事が終わってからで構いませんから夜切様に渡しておいて下さるかしら?」


「分かりました」



振り向き様に言付けられた際、由姫乙の視線は夏芽にあった。軽く霊視をしている様だが相手は地縛霊だけにその表情は怪訝そうだ。

彼女は陰陽師ではないものの、昔からそういう類いのものを日常的に見ている。生まれつきの霊能力らしいのだが、その力は尊自身が彼女に依頼の補佐を頼む事もある程に侮れない。


「この部屋をお使いなさい。依頼が片付くまで使って貰って結構ですわよ」



他愛ない会話を交わし、廊下の突き当たりを曲がったところで『GR13』とドアのプレートに表記された客室へと通された。単純にゲストルームと部屋番号の略称なのだが、果たしてこの豪邸にゲストルームは一体何部屋あるのだろう。以前尊が宿泊した時の部屋は『GR20』だった記憶がある。

元々久坂部宅へ宿泊する予定だった為、ある程度の物はボストンバックにまとめて持参している。尊はそれを床に起き、ドアを開けたまま壁に寄りかかっている由姫乙へ頭を下げた。



「では、またしばらく御世話になります。御休みなさい」



しかし何故だろう、由姫乙は言葉一つ返さず微動だにしない。不思議に思った尊は声をかけるのだが、彼女は彼を見もしないのだ。

視線はやはり、夏芽へと向けられていた。

彼女は彼女で、ロイヤルホワイトで統一された豪華な室内をただ見回している。



「神城」


「はい…何でしょうか」


「貴方、いつも背中に張り付けているアレはどうしましたの?」


「……アレ?」



何の事だろう。尊には見に覚えの無い話だ。そんな彼の反応を見て、由姫乙は溜め息を溢す。眠そうな目を更に細め、艶やかだった声色を非難のそれに変えた。



「今回の依頼の件、貴方の御父様には何も報告をしていらっしゃらないの?」


「……私も子供ではないのですから毎回報告など致しませんよ。しかし、貴女は一体何の話を――」