株式会社「C8」





「で、泊まらせろと仰るのですわね?」


「いやぁ、お休みのところ大変申し訳ありません…クライアントの自宅で泊まり込みの依頼だと伺っていたのですが、少々手違いがありまして…」


「成る程……まぁ、確かに。そちらのお連れの方を見れば、貴方の御父様は良い顔をなされないでしょう」



ピンポンとチャイムを鳴らせば、明らかに不機嫌だと分かる態度で迎えられた。


世田谷区某所。

高級住宅街の一角に一際目立つ豪邸、華崎家。家主は現在海外にいる資産家の一人娘。彼女の為だけに建てられた、あのホワイトハウスを思わせる外観の邸宅はレプリカとは思わせない程の風格を感じさせる。

門をくぐった先の広大な庭園には、巨大な噴水やナポレオンの石像、綺麗に整えられた天然芝の上に可憐なリンドウが青い花畑の如く沢山植えられている。リンドウは彼女の一番好きな花だとか。


無理矢理起こしてしまったが、電話が繋がったのは本当に運が良かった。

彼女は少々特異体質な人間で、午後七時に就寝し、午前二時に起床すると言う奇妙な生活リズムがある。理由も明確。

生き物の息吹が全く感じられない真夜中。草木も眠る、とは良く言ったものだ。所謂『丑三刻』は、霊的なエネルギーが活発になり『彼等』が本領を発揮する時間帯。

彼女は尊に近い人間故に、その時間帯に起床する事でその日一日活動する為のスピリチュアルエネルギーを吸収しているのだ。

尊自身はそこまでしないが、彼女のサイクルは成る程理にかなっていると思う。



「前から思っていましたけれど、私の家は貴殿方の緊急宿舎ではありませんのよ?」


「…全く面目ない」



『貴殿方』と言うのは、尊以外の人間も頻繁にこのように訪れては彼女の自宅を宿代わりにしていると言う事で、実際、尊も今回が初めてではない。

女性の自宅に…、などと卑劣な考えが過らない程の容姿な訳でも無いのだが、彼女は仕事仲間でもあり、尊にとっては家族のようなものだ。他の皆もきっと同じだろう…と言うのは、彼女にとって都合の良い言い訳になってしまうのだろうけど。

しかし事実、彼女と執事、そしてあと三名の住み込みで働いている雑用係だけでは広すぎる屋内と部屋数。使わずして何の為にあるのかと聞けば、結局首を縦にしてくれるのだから、口では小言を挟んでもきっと嫌悪までは抱いていないのだと思いたい。