「ふぅ…ギリギリ。」
八代はジャスト二十秒で第一のミッションを完遂した。立間希美の上着、鞄に小型盗聴器を仕込み、男性用ロッカールームに戻ってノートパソコンを鞄にしまう。
携帯で現在の時刻を確認すると正午を回ろうとしていた。随分タイムロスをしたようだ。軽く舌打ちをして次のミッション遂行の為、場所を移動する。
第二のミッション、セキュリティの把握。しかしこれは警備室に行かなくてはならない為、後回し。
第三のミッション…これが今日の要。
立間希美に接触する。彼女の白衣にも盗聴器を仕込まなければならない。研究室にも設置する必要がある。これは自力で設置するしか無い。先程のハッキングに加え、管理システムのトラップ作動…流石にセキュリティ会社が感付いているかもしれないので再び監視カメラをスリープさせるのは難しい。
「…ん?」
ふと、手に握っていた携帯のランプが点滅しているのに気付く。メールのようだ。
今時スマホでもiPhoneでも無いガラパコス携帯。八代は携帯を二代活用している。一つはこの仕事用の携帯。私用の携帯はちゃんと時代に遅れず、iPhone5を使っている。
メールを確認すると、浩子からであった。
『皐月に協力を仰いでおいた。自宅での殺害は不可能。事務所へ戻る。尚、話は通してあるので心配無用。』
「皐月」とは、八代の言う「眼鏡」の事である。
フルネームは五條皐月(ゴジョウサツキ)、17歳。
都内の高校に通う学生。理系、帰宅部。
身長171cm、体重54kg
1996年3月19日生まれ、A型
茶髪に黒ぶち眼鏡。頭脳明晰。
主に担当する依頼は、ハッキング、PC関係、探偵、学業関係等。
組織での役割は、依頼関係の情報収集、各メンバーの依頼補佐。事務所の掃除。
「……心配無用…って、何がだよ。」
パタンと携帯を閉じ、ターゲットがいるであろう第一研究室へと足を進める。
偽の社員証には第三研究室研究員と記載されているが、適当に言い訳をして接近を図ろうと思う。
自動販売機の設置された廊下をまっすぐ進み、突き当たりを左へ曲がる。すると、すぐに研究室の並ぶ通路へ出た。
