株式会社「C8」





それを浩子は、死者を冒涜するかのような馬鹿げた大金を提示し、支払わせた。そういう社会の枠組み内にある組織だとは分かっていても、父の朱冥ならばきっと彼女を呪い殺す勢いで掴みかかっているに違いない。

はぁ、と大きな溜め息を一つ。

上司の尻拭い。では無いけれど、これではあまりにも彼女が不憫だ。これは、やるやらないの話では無くやって当然の事。



「…うちの責任者が大変申し訳ありませんでした。その御依頼、慎んでお受け致します」


『えっ?あ、ありがとうございます!良かった!私の通帳と実印を差し出した甲斐がありましたっ!』


「……は、」


『名義は父なんですけど、私用に作ってもらったものなんです。持参した記憶はあるんですが、自宅に戻って気付いた時には無かったので責任者の方にちゃんと渡せたのだと思います』


「…あの、この度の御依頼につきます報酬額が如何様になっているか御存じですか?」



まさか、報酬額を提示する前に差し出された通帳の預金額を見て、全てそのまま…。

となると、流石は箱入り娘と言うか。彼女は自分の預金額など確認せずに通帳と実印を手渡してしまったと思われる。


――あの人は本当に仕様のない人ですね。


内からふつふつと沸く何かと、預金額に対し深く言及したい気持ちを堪え、しかし若干口角がピクピクと引き攣るのはどうにも出来そうにない。

目の前で『分かりません』と苦笑いする彼女の依頼を、丁寧かつ、迅速に片付けてしまおう。そして、事務所に帰ったら浩子に一言くらい苦言をしなければ気が済まない。

ついでに、今回彼女から巻き上げたであろう金で、二階のエアコンを修理してもらうように進言…、否、強制的に修理に出しても文句は言えない筈だ。修理代など、たかが知れている。

とは言え、結局いつもの如く適当に流されてしまうだろうと予想は付く。さて、一体どう言い回せば良いのやら。

そもそも、毎回依頼で多額の報酬が出ているが、その金はどうなっているのだろうか。メンバーへの給与を抜いても有り余る程の額だろう。事務所には金庫も無い。別に浩子が何に使おうと知った事では無いのだけれど、特別贅沢三昧している様子も見受けられない。老後の為、だなんて考えるような歳でもないだろうに。



『…神城さん?』


「!……ああ、すみません」


『何だか難しい顔をされてましたけど…』