体育館の外に設置されている水道に着いてから、まず彼女はその横にある椅子に腰を下ろした。ハァーと、大きく深いため息も溢れる。
「私、バカだなー。」
思わず、そんなことすら呟いてしまう始末だ。
怪我をしていた足は右。そんな足の血も、既に止まっていた。逃げてきたと言われても、否定は出来ない。しかし、洗わなければいけないのも事実なので、言い訳をするとしたらその辺だろう。
「……誰に言い訳するんだよ。」
自分で自分に突っ込みを入れ、虚しくなり、またため息をついた。
仕方なく立ち上がり、水道の正面に立つ。そのまま蛇口に手を伸ばして、捻る。水が溢れ出す。流れてくる水を手に感じながら、こんな風に泣けたらどんなに楽だろう。そんな思いが一瞬だけ過った。振り払い、手を椀の形にし水を受け止め、それを勢いよく傷口にかける。
「ぬるっ。」
思わず、声が大きくなった。暑い日の、外にある蛇口だ。温くならないはずはなかったのだが、そこまで頭が回らない。温くてもいいやと、再び同じ形で水をかけた。
一旦水を止め、汚れを取るように足を撫でる。土色に染まったその足は、どこか惨めでもあった。
ひたり。靴下から靴まで水が伝わっていた。勢いよくかけた水と、足を伝った水がいけなかったようだ。変な感覚に陥る足に焦り、一回椅子に座り直した。
「……暑いから、すぐにでも乾くよね。」
そんな、淡い期待を込めた言葉を溢す。靴を脱ぎ、その上に足を置く。靴下を脱ぎ、椅子の上においた。
そのままうまい具合に、また傷口へ水をかけた。今度は、あくまでもゆっくりと、だ。
「あ、冷たくなってる。」
ひんやりと、しかしひりひりとする傷口がなんとも言えずに触りたくなるが、必死に我慢した。
大体の土は落として、彼女は靴下も靴も履けないので、椅子から足を揺らす。 リレーは、やっているのだろうか。彼は、走っただろうか。
もちろん、見たかったのだが、あのままだったら、静華は多分泣いていた。どうしても彼女に敵わないことを悔やみながら。どうしても叶わないこの片想いを呪いながら。
そんなところを見られては、彼女、瑠璃に申し訳が立たなかった。多分彼女は心配し、そして自分のせいかと考えたならば、また泣くかもしれない。瑠璃の悲しい顔を見た彼もまた、彼女と同じように悲しみに走っていくから。
だからもう、瑠璃のことを悲しませたくはなかった。
「また、私が瑠璃ちゃんを好きだって噂が広まるなぁ。」
そこまで考えて、思わず苦笑する。
「だったらお前、俺なんかよりよっぽどいいやつだぜ。」