【短編】体育祭で伝えられなかったコト

「そう言う凪沙ちゃんが、一番嬉しそうだよ。」
あったり前じゃんと、楽しそうにからからと笑う。
「今んとこ勝ってるんだぜ?こっからもっと、うちらも頑張って点数、稼がないとな。」
そう言ってみたものの、静華の表情を見て、ニヤケ始めた。
「あーそっかぁ。うちらが勝ってても、しずしずは嬉しくないわな。」
「なっ……。」
すべてを分かっているというような表情でボソリと呟かれ、思わず顔が赤くなる。元から暑かったから、そうそうバレないはずだ。バレては困ると、静華は思った。
「……ま、ここでくらい、勝たれてもいいや。」
「なにそれ、投げやり。」
気にすんなと、また笑われた。言われたら、気にすることも出来ない。
まぁいいや。そんなことより、リレーはまだかとそわそわし始める。
「あー、うち次走るんだわ。」
そっと立ち上がって、口角を上げる。あくまで、静華には顔を見せずに。
「リレーでくらい、走り見とけよ。アイツのも、うちのも。」
言われ、静華も立ち上がり反論しようとした。背中越しにもそれが伝わったのか、はっはっはっと笑い始める。そのまま、いってきますという言葉だけを残してり、振り返ることもなく手を振って行った。見えていないとは思いつつ、静華も小さく手を振る。

「えっ、凪沙ちゃんが走るって、次なに?」
後ろからそんな声が聞こえた上に、背中に小さいとは言え衝撃が走ったため、びくりと肩を震わせた。
「瑞香ちゃん。貴方、白組じゃない。」
ゆっくりと座りつつ、静華はそう言う。
「そう言わないでよー。白の人、面白くないんだもの。で、次は?」
次は次はとしつこかったため、仕方なく、体育祭の日程の書かれた紙を開く。
「男子の選抜リレー。次は、それの女子。」
見れば、男子はもう入場をしてしまっている。赤のテントでは、応援をしようと大多数が立ち上がっている。
選抜リレーかぁと、瑞香は呟いて少し考えた。そのあとに、あっと大きな声を溢した。
「私、出るんだったわー。」
あはははーと笑いながら言うものだから、思わず一緒になって笑ってしまった。しかし、静華の方は先に笑うのをやめ、驚きの声をあげる。
「なんで気付かなかったの!?もうほっとんど集まってるじゃん!早く行きなよ!」
「あははー。ありがとー。」
そのまま、入場門に走っていった。否、

――走っていけたら、良かったのかもしれない。
瑞香が走っていく時、椅子にぶつかってしまった。避けてはいたものの、人数分もあるのだ。絶対に当たらないことは出来ない。
それだけなら良かったのだが、偶然にも、勢い余った椅子が倒れた。その先にあったのは、テントの柱。
その下にいるのは、1人の青少年を見つめていた少女。
「瑠璃ちゃんっ!!」