ダラリダラリと、汗が頬を伝う。それはやがて、首筋を通り、服に吸収されるか、地面に落ちて模様を作る。
せっかく塗った日焼け止めも、その汗と一緒に流れていく感覚がして、体操服姿の柳静華(やなぎしずか)は、暑いだけではない日差しを呪った。

誰からしても、9月とはもう秋であるはずなのに、まだまだ残暑が厳しい。このままだと10月も、はたまた11月もずっとこの調子なのではなかろうかと、心配になってしまうくらいだ。
さらに、静華が通う学校では、毎年9月に体育祭がある。残暑に加えて、外での体育祭練習。辛くないはずもなかった。

ふと静華は、少し遠くにある時計を見る。外での練習の終わりまで、あと30分以上あり、肩が重くなるのを感じた。
先生や応援団、主将の声などを、耳に入れることにすら暑いと感じてしまう。
「大丈夫か?」
隣の女子生徒が、ボソボソと声をかけた。
そんなに心配される程の表情だったかと、思わず苦笑する。
「うん、大丈夫。……ってか、凪沙ちゃんのが暑そうなんだけど。」
「いやー、まさか、体操服入れに、長袖しか入ってないとか思わなくてさ。」
その言葉通り、凪沙(なぎさ)と呼ばれた女子生徒は1人、長袖長ズボンの青い体操服を着ていた。
その他の全員が、半ズボンの青よりも、半袖の白が目立つため、全身の青い凪沙は、確実に浮いている。
クスクスと笑いだした2人を、応援団の1人が制した。
「そこの2人、気を引き締めて下さい。」
凛としたその声を合図に、視線が集まる。
「特に凪沙さん。貴方は半袖の体操服を忘れたことの重要さが、分かっていないのですか?」
名指しにされ、静華には聞こえたが、本当に小さく舌打ちをした。
「……分かってます。でも、しずしずは悪くないです。」
「っいや、私も悪いんで。」
その言葉に、ギロリという擬音が似合いそうな目が、静華を見る。否、睨み付ける。冷や汗が流れてくるのが、自分でも分かった。
「……次からは気を付けて下さいね。」
はーいと、気の抜けた返事をする。怖かった目をそらされ、安心したようにため息をつけば、また一瞬だけ睨まれた。まぁまぁと、別の応援団が彼女を止める。
「なんだよ、アイツ。声も、私より出てないってのに。」
「凪沙ちゃんより声が出せる人が、そんなにいるわけないでしょ……。」
そうだけどさぁと、未だに不満げな声を漏らす彼女の声は、団長の気合が入った言葉により消えていった。