「昨日、突然、彼女が病院に現れてね。数年ぶりに再会したんだ。仕事帰りに食事に誘われたんだけど、断った。・・・僕にはキミがいるから。大好きなキミがいるのに、他の女と食事とか・・・無理だろ?」
「・・・・・・・・」
私は少しびっくりして、二、三度、瞬きをして、圭さんを見た。
私がいるから久しぶりに再会した元カノとの食事を断ったと言う圭さんに、嬉しくて堪らなくなる。
「彼女・・・北野って言うんだけど。北野は僕がずっと一人の人を想ってきたってことを知ってるんだ。別れる時に、話したから」
「・・・・・圭さんがずっと想ってきた人?」
「うん、キミのことだよ」
私はすぐに返ってきた圭さんの言葉に、息を呑んだ。
私と出逢う何年も前のことなのに、圭さんは私のことを想っているからと北野さんに別れを告げたと言った。
圭さんが意味しているのは、私だけど、私じゃなくて・・・“あの頃”の私。
すぐにそれは理解できたけれど、余計に驚きが大きかった。
心の記憶の中だけに住む“私”
その“私”をどれだけ深く想ってくれていたんだろうかと、改めて私は胸が締め付けられた。
「だから昨日もちゃんと北野には伝えたんだ。ずっと探していた人にやっと巡り逢えて、今、付き合ってるから、他の誰とも意味なく出掛けたりしないって。それで納得してくれたと・・・納得してほしいと思ってたんだけど・・・・・」
そこまで話して、圭さんがぎゅっと深く眉を顰めた。
その表情がとてもつらそうに見えて、私は無意識に圭さんの手に自分の手を重ねていた。
「・・・あい・・・・・」
びっくりしたように目を見開いた圭さんの顔を、じっと見て、私は小さく笑みを浮かべた。
うまく笑えているかどうか、わからない。
でも、圭さんのつらい気持ちを少しでも軽くしたくて、私は笑顔で圭さんを見つめた。

