ドアの前に立っていた圭さんが、静かにドアの中に入ってくる。
「お邪魔します」
小さな声でそれだけ言うと、目の前の私の顔を見て、なぜか傷ついたような悲しそうな顔をした。
「すいません・・・私、酷い顔してますよね」
やっぱり泣き腫らした顔を嫌がられたのかと思って、私は俯いてしまう。
そんな私の頬に圭さんの大きな掌が包むように触れて、優しい指先でそっと赤く腫れている目元を撫でた。
「ごめん。僕のせいだね」
悲しそうなその声に、私が反射的に顔を上げると、圭さんは苦しそうに眉を寄せていた。
「・・・圭さん」
圭さんのそんな表情がとても切なくて、私はまた目に涙が滲んできてしまう。
「あの、上がって下さい」
私は涙が零れる前に慌ててそう言うと、顔を隠すようにリビングの方を振り向いた。
「うん、お邪魔します」
圭さんはもう一度、そう言うと私の頬から手を離した。
そして、私が促すまま、奥のリビングへ入っていく。
リビングのガラスのテーブルの前に二人で並んで座ると、ぎこちない沈黙が流れた。
「あ・・・すいません、今、何か飲み物でも・・・」
「あい」
それを取り繕うように、立ち上がった私の手を圭さんが優しく掴んで引き留めた。
「何もいらないから・・・僕の話を聞いてくれる?」
圭さんの声は落ち着いているけれど、真剣で。
圭さんが話そうとしている内容がどんなものなのか、急に不安になる。
それでもそれを聞かなければ、何も解決しないことはわかっているから、私は圭さんの隣に座り直して、小さく頷いた。
「あい、今日は本当にごめん。何から謝ればいいのかわからないくらい・・・全部、ごめん」
圭さんはまず、謝罪の言葉を口にした。
それに私はゆるゆると首を左右に振った。
「さっきの人だけど・・・僕がキミに出逢うずっと前に付き合ってた人なんだ」
あの人が、圭さんの元カノだってことは私にもわかっていたから、私は無言で頷いた。
「研修医の頃のことだから、もう別れてずいぶん経つんだよ。一緒に東都大病院で研修医をしていたけど、彼女は別の病院に就職したし、それ以来、一度も会ったことがなかった」
圭さんは真面目な声と表情で静かに話していく。
私は黙ってそれを聞いていた。

