少しの間、ボーっとしていた私は、これから圭さんがここへやってくるという事実を思い出して、急に慌て始めた。
泣き腫らした目。
たくさん走ったせいで、髪も乱れている。
それに、泣きすぎてメイクもボロボロになって、見るも無残な顔。
こんな姿、圭さんに見られるなんて、あり得ない!
さっきまで、落ち込んで何も考えられずに、座り込んでいた私は、自分の姿が急に恥ずかしくなって、急いで洗面所に行って、身なりを整えた。
『僕が好きなのはあいだけだよ』
圭さんが言ってくれたその一言だけで、ゲンキンな私は少し元気になってる。
さっきまで不安に震えていたのに・・・魔法の言葉みたい。
まだ、何一つ訊けていないし、解決もしていない気がするけど。
それでもやっぱり、その魔法の言葉の威力は絶大だと思えた。
私があたふたと身なりを整えて、帰ってきたままだった室内を片付けていると、インターホンが鳴った。
それは1階のエントランスからのもので。
私はモニターの通話ボタンを押して、応答した。
「・・・はい」
『あい?僕だけど・・・』
さっきの電話での強引さはどこへ行ったのか、圭さんは遠慮気味な声で答えた。
「今、開けますね」
私はそれだけ言うと、エントランスのオートロックの解除ボタンを押した。
『ありがとう』
律儀な圭さんは、それだけのことにお礼を言う。
そして、開いた扉から中に入ったのか、モニターから遠ざかっていく微かな足音が聞こえた。
数分もしないうちに、今度は私の部屋のインターホンが鳴る。
・・・圭さんが来たんだ。
今更ながら、このドアの向こうに圭さんがいるかと思うと、ドキドキと鼓動が高鳴った。
あんな風に走って逃げたこと、怒ってないかな?
泣き腫らして、酷い顔をしている私を嫌がったりしないかな?
そんな些細なことを気にしながら、私はそっとドアを開けた。

