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私は無我夢中で走っていた。


私の目の前で起こったことがショックで、悲しくて、苦しすぎて。


駅までスピードを緩めることなく走って、私はそこで初めて足を止めた。
無意識に後ろを振り返っても、そこには誰の姿もない。


追いかけてきてくれる・・・


心のどこかでそれを期待してた。
自分から逃げ出したのに。
圭さんなら追いかけてきてくれると・・・それは私の身勝手な願いだった。


私は誰もいない、今走ってきた真っ暗な世界をしばらく見つめていた。
いつまでたっても現れることのないあの人の影を探して。
でもそれはただの私の身勝手な望み。


圭さんは追いかけてきてはくれなかった。



乱れた呼吸が落ち着きだした頃、私はフラフラしならが改札を通り抜けて、ホームで続く階段を上る。
ちょうど滑り込んできた電車に乗り込んで、二駅目で降りた。
駅からマンションまでどうやって帰ったのか覚えていない。


私はいつの間にかマンションの自分の部屋の前に立っていた。


鍵を開けて、ドアの中にノソノソと身を滑らせて、後ろでガチャリとドアが閉まった瞬間、私は玄関の床に崩れるように座り込んだ。


そこで初めて、ずっと我慢していた涙が溢れた。


「ぅっ・・・うぅ・・・・・」


誰が聴いているわけでもないのに、声を殺して泣いた。
一度溢れた涙は涸れることを知らないのかと思うほど、次から次に溢れてくる。
大声を出してしまったら、その声と一緒に今までの幸せが私の中から消えてしまうような気がして。


私は声が漏れないように口を手で隠して。
ひたすら溢れる涙を止めることもできずに、その場で蹲っていた。