「北野はもう大丈夫だ。後は目が覚めるのを待つだけだから。お前はお前が手を差し伸べてやらなきゃいけない子のところへ行ってやれよ」


「・・・ありがとう。矢野、一つ借りだね」


「ああ?別に借りなんてなんもねぇよ。まあ、そう言うなら今度ちゃんとあいちゃんを紹介しろよ?」


勢いよく立ちあがった僕に矢野はニヤリと笑った。
僕は「それは無理」とだけ言って、矢野に片手を上げると、急いでその場を後にした。




非常灯だけが点いた薄暗い病院のロビーまで走ってきて、僕は携帯を取り出した。


受付や会計窓口の並ぶこの場所は、携帯が通じる。


時計はすでに1時を過ぎていて・・・僕は一瞬、躊躇しながらも愛しいその人の名前を表示させると、通話ボタンを押した。




1秒でも早く、あいの声が聴きたい。


不安に震えているなら、今すぐにそのすべてを取り除きたい。



僕は祈るような気持ちで、耳元で響くコール音を聴いていた。