巡り愛

「北野、ホントにやめろっ。なんでこんなところにまで来て、あいの前であんなこと言ったんだ。今の僕には彼女以外考えられないって言っただろっ」


僕は怒りにまかせて北野の手を振り払いながら、責めるようにキツイ口調で言葉を投げる。
それでもまた僕にしがみついてくる北野を睨むように振り返った僕は、そこで初めて、北野の様子が尋常じゃないことに気付いた。


目はうつろで、僕のことを見ているのに、意識はどこかに行ってしまっているような危うい顔をしている。
足元はふらふらしていて、それでも僕にしがみつく腕だけは、強くぎゅっと僕の腕を握っていた。


「北野・・・おい・・・」


「・・・け、いぃ・・・・・」


僕の声もその耳には届いていないような顔をして、涙を流す北野はうわごとのように小さく僕の名前を呼んでいた。



北野が僕を掴んでいた手を引き離して、電灯の下で彼女の顔を見る。
目はやっぱりうつろで、意識もどこかはっきりしていない。


普通じゃない・・・


これは・・・・・・



僕が何度か呼びかけても、声は北野の耳に届かないのか、北野は僕の腕の中に落ちるように力なく倒れてきた。