巡り愛

心の中だけで存在していた“あい”を否定して、想いを寄せてくれている北野を傷つけた。
僕はやっぱりすごく狡くて、最低だったと、後から悔いても遅かったけれど。


それでも北野はそれ以上は求めてこなかった。
別れた後、しばらくしてから研修医期間が終わって、僕はそのままこの病院に勤務が決まった。
北野は地元に帰って、そっちで就職した。


僕達はもう完全に終わっているんだ。



「・・・・・圭がずっと想っていた人に出逢えたの?」


「ああ、やっと出逢えた。今は彼女のこと以外考えられない」


「・・・・・圭、変わったね」


北野が悲しそうに顔を歪めて、笑った。
その顔を見て、少しだけ心が痛んだけれど、やっぱり手を伸ばすことはできない。
もう、僕の手はあいにしか伸ばせないものだから。


「でも・・・圭に好きな人がいてもいいの。少しだけ・・・少しだけでいいから・・・」


「ごめん」


揺れる瞳で、すがるように重ねる言葉を僕は遮って、そのまま立ち去ろうとした。


北野は弱っているんだと思う。
誰かに甘えたいんだと思う。


でも、僕にはそんな北野を受け入れることはできないから。


「圭・・・・・」


立ち去る僕の背中に、小さく聞こえた北野の声に振り返ることなく、僕はその場を後にした。



次の日、矢野に昨日の北野とのことを話すと、矢野も表情を曇らせながら、それでも僕の言った言葉を責めはしなかった。


「北野にはキツイだろうけど、変な期待を持たせるよりいいよ。その方がきっと、北野も前を向いていけるはずだ」


僕もそうあってほしいと願っていた。




でも、それは・・・




僕が思っていたよりもずっと、北野を追い詰めていたのかもしれない。