「だって・・・圭、ずっと想ってる人がいるって・・・探してる人がいるって」
「ああ、そうだね。・・・だから、今僕は彼女と付き合ってるんだけどね」
「え・・・・・」
「やっと探していた人が見つかったんだ。僕がずっとずっと想ってきた人が、見つかったんだ」
「・・・・・・・・」
北野の見開かれた目がやっぱり信じられないと疑いの色を滲ませた。
僕と北野はお互いが研修医としてこの病院で勤務していた頃に付き合っていた。
大学の同期で、友人関係だった僕達だけど、北野に告白されて、僕はそれにOKを出した。
心の中にいる“あい”に出逢えるかどうかもわからなくて、他の誰かを好きになれれば、楽になれる・・・
そんな風に思っていた時期だったから、告白してくれた北野と付き合うようになった。
今思えば、バカなことをしてたと思う。
矢野じゃないけど、ホントに僕はバカだった。
北野と付き合っていても、心はまったく満たされなくて。
逆に乾いていくばかりで。
心の中に住み続けている“あい”にもっともっと思いは募るばかりだった。
北野は“あい”じゃない。
そんなわかりきっていたことを感じる度に、僕は心の中の“あい”の存在の大きさを思い知らせれた。
その頃は実際に出逢ってもいない。
存在しているのかすら、定かじゃなかった。
それでも、他の誰かを無理やり好きになるなんて、やっぱりできないことだった。
肌を重ねたこともあったけど、僕を支配していたのは義務感だけで。
心はまったくついていっていなかった。
やっぱり僕には“あい”以外は無意味なんだと、嫌って言うほど自覚させられて、僕は1年もたたないうちに、北野に別れを告げていた。
『どうして?』と問う北野に、僕は正直にその理由を口にした。
僕の中にはずっと、想っている一人の女性(ひと)がいる。
その女性(ひと)を探し続けている。
北野と付き合っても、忘れることはできない。
僕には“彼女”だけが特別なんだ。
そう、僕は北野に告げた。
北野は信じられないと、別れたくないと言ったけれど、僕の気持ちが固いことを知ると、納得してくれて、了承してくれた。
すべては僕の我儘だったと思う。

