「何か思い出したの?」


私を抱き締めたまま、圭さんが小さな声で訊ねた。
その声がどこか不安そうなのは、なぜだろう?


「“あの頃”も圭さんに髪を撫でてもらうと、すごく幸せな気持ちになっていたな・・・ってそれだけなんですけど・・・ごめんなさい」


「どうして謝るの?」


「だって・・・」


なぜかはっきりとは思い出せない“あの頃”の記憶。
それがもどかしくて、圭さんに申し訳ないような気がして。
私は眉を下げて圭さんを見上げる。


そんな私にふっと優しく微笑んで、圭さんはさっきよりももっと優しく、何度も私の髪を撫でた。


「いいんだ、思い出せなくても。あいが僕自身のことをちゃんと思い出してくれて、今、こうして受け入れてくれてることが本当に幸せだから。“あの頃”の・・・前世の記憶が重要なんじゃない。今、キミとこうしていられることが、何よりも大切なんだよ」


「・・・・・圭さん」


私の溢れてくる涙に滲む視界の先で、圭さんは優しく、愛しげに私を見つめてくれている。
その瞳に思いの深さが浮かんでいて、私の心はぎゅっと切なく、甘い痛みでいっぱいになった。


「あい・・・愛してる」


「―――――っ」


両手で包むように私の頬に優しく触れて、圭さんはそっと囁いた。
優しい表情なのに、瞳はとても真剣で。
私はカッと顔に熱が湧き上がるのを感じた。


『愛してる』の言葉に心が震えて、涙が止まらない。


圭さんは私の頬を両手で包んだまま、ゆっくりとお互いの距離を失くしていく。




初めて触れた圭さんの唇は柔らかくて、とても温かだった。