不意に・・・


“あの頃も”こうして、よく髪を撫でてくれていたな。


なんて、ボーっと心の中の記憶が溢れてきた。


・・・“あの頃”もこんな風に幸せで満たされていたんだなと、急に思い出された記憶の欠片とその不思議な感覚に少し戸惑いながら、でも、心を満たしているのは温かい感情で。
私は“あの頃”も幸せだったと、強く感じた。


「あい?・・・どうしたの?」


私が黙ったままボーっとしていたから、圭さんが少し心配そうに首を傾げて私の瞳を覗くように見つめる。
私はそんな彼の瞳がとても愛しくて。
“あの頃”の私の想いと、今、日に日に大きくなる私自身の想いを重ねて、より膨らむこの気持ち・・・


圭さんのことが『好き』


それは私の中で限度を知らないほど、大きくなっていた。


「・・・幸せだなって思って。“あの頃”もとても幸せだったなって・・・でも今、圭さんとこうしていられることが本当に幸せ・・・・・」


その先の言葉は強く抱き締められた圭さんの胸の中に消えた。


圭さんはぎゅっと強く強く私を抱き締めて、なぜか苦しそうに眉を寄せて私の髪に顔を埋めている。
でもその腕の強さが圭さんの想いを伝えてくれて。
私はさらにもっと、幸せで満たされていた。


「あい・・・僕の方がもっと幸せだ」


掠れた声でそう私の耳元に落とす圭さんの声は、切なさでいっぱいだった。
“あの頃”の記憶をまだあまり思い出せない私とは違って、圭さんはずっと・・・生まれた時からずっとその記憶を持っていたのだから、想いの深さがより大きいのかもしれない。



どうしてもっと早く出逢えなかったのだろう。


もしもっと早く出逢えていたら、圭さんにこんな切ない思いをさせないですんだのに。


でもそれは、どうしようもないことで。
出逢えなかったことはどうやっても変えられないことだから。


今、こうして巡り逢った奇跡を・・・運命を何よりも大切にしたい。


もう圭さんに切ない想いをさせないですむように。
大切な、大好きな圭さんと幸せでいられるように。


重なり合った私達の運命を二度と別々のものにしないように・・・・・