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時計は9時を少し過ぎたところを差している。
私は最近、この時間になるとソワソワと落ち着かない気分になる。
夕飯も食べ終わって、お風呂にも入って。
後は寝るまでの時間、まったりとテレビを見たり、本を読んだり。
そんな何気ない時間だけど、『夜の9時』という時間が私の中でとても特別な時間になっていた。


それは。



~♪~♪~♪~


私はガラスのテーブルに置いていた携帯から流れる着信音に今日もやっぱりドキンと大きく鼓動が跳ねる。


慌てて、携帯を手にして着信の名前を確認すると


『桐生圭』の文字。


今夜も時間通りに電話をくれる彼の声が早く聴きたくて、私は鼓動を高鳴らせながら、通話ボタンを押した。


「は、い」


ドキドキし過ぎて、声が上ずってしまった気がして、恥ずかしさで顔に熱が上がる。
初めての電話でもないのに。
こうして毎晩、圭さんから電話をくれるようになって、1週間以上経っているのに。
まったく慣れない自分に、ほとほと呆れるけど。
でもそれは、『好き』って感情の起こす魔法だってわかっているから。
ドキドキするのも嫌じゃない・・・いや、かなり嬉しいことだと思う。


『こんばんは。外、雨降ってるよ』


圭さんはいつもの優しい口調で挨拶をすると、そのまま何も気にしないように、普通に会話を始めた。
でも『こんばんは』と発する前に、圭さんが小さくふふっと嬉しそうな吐息を零していたことに電話越しにも気づいて、私はそれだけで恥ずかしいのに、胸がキュンと甘く疼く。


「あぁ、降り出しちゃったんですね。圭さん・・・帰り大丈夫ですか?」


もうすぐ担当している患者さんのオペがあるから・・・と今日は遅くまで仕事だと、昨日電話で聞いていたから。
きっとまだ病院なのかと思って、そんな風に訊いた。