「あぁ・・・でも、彼女がまさか桐生の彼女とはな・・・あんなに可愛いのになぁ・・・イタッ!」


僕の隣でまだ大げさに繰り返す矢野の頭をカルテのファイルの角でゴツンと叩いた。


「だから『可愛い』も禁止」


「お前・・・ホント180度、別人。そんな態度今まで一度もなかっただろ、どこに隠してたんだよ」


僕が叩いた後頭部を手でさすりながら、矢野が口を尖らせるようにして睨んだ。


「さぁ?」


僕が冷たく答えると、矢野はあからさまにムッとして、でもすぐにプッと噴出して大きな声で笑った。


「まあ、何にしてもよかったよ。お前にも人間らしい感情があってさ。仕方ないからあいちゃんのことは諦めてやるよ」


「・・・・・気安く名前も呼ぶな」


「はぁ?お前、どんだけ別人化してんだよ」


矢野は呆れたように両手を上げて、「おいおい」と肩をすくめた。


・・・僕だって、自分がここまでだとは初めて気づいたんだ。
だけど、『あいちゃん』なんて、気安く呼ばれると、ムッとしてしまう。



ホント、僕ってこんなヤツだったんだ。



やっぱり他人事のようにそう思いながら、笑う矢野に釣られていつの間にか僕も笑っていた。