巡り愛



「ああ、それ。来週のオペの患者の?」


僕が見ている書類やカルテに視線を落としながら、訊ねてきた矢野に「ああ」とだけ答えて、僕はサンドイッチの最後の一口を飲み込んだ。


「結構厄介なオペになりそうだけど、お前なら間違いないな」


気軽そうにそう言う矢野の言葉に、ちらりと視線を向けてブラックの缶コーヒーを口に含む。



『お前なら間違いない』


そう言われるのは光栄だし、嬉しいことだと思うけど。
僕だってまだまだ新米の域を出きらない年数だ。
でもこの仕事は新米だから、経験が浅いから・・・そんな言い訳が通る世界ではないから。
患者は僕達“医師”を信頼して身を任せてくれるのだから。
僕は自分のできることすべてでそれに応えなければいけないし、そうありたいと思っている。
だから誰よりも努力してきたし、これからも努力しなければいけない。


矢野には「真面目すぎる」とか「堅物」とか言われるけど、それが命を預かるってことだと思っているから曲げるつもりも妥協するつもりもない。




何よりも・・・・・・



僕には護らなければいけない、護りたい“命”がある。


そのための技術も経験も、身に着けられるものはすべて手に入れる。


それが僕の医師になった唯一の理由だから。



妥協なんて出来るはずもない。