「大丈夫?僕でよかったら話して?」
顔を上げない私に圭さんの声が更に心配そうに重ねられる。
私はそんな彼に自分の嫌な嫉妬心を悟られたくなくて、顔を上げると精いっぱいの笑顔を向けた。
「大丈夫です。お昼を食べたばかりで、午後、眠くなるなって思ってただけですから」
そんな間抜けなことしか言えない自分がバカみたいだけど。
『嫉妬してました』なんて言うよりずっとマシだから。
私は照れたように笑って見せた。
「そっか・・・でも何かあったら相談してね。あいの心配事は僕が取り除いてあげたい」
「圭さん・・・・・」
私の言い訳を見抜いているような真剣な瞳で。
でもそれ以上は訊いてこない圭さんは大人だと思う。
しかも『あいの心配事は僕が取り除いてあげたい』なんて言われて。
現金な私はさっきまでのもやもやがパッと消えていくのを感じた。
嬉しくて、振りじゃなく、本当に照れてしまってじんわりと熱を帯びる頬を感じながら、小さく「はい」と頷いた。
「圭さん・・・今更ですけど、どうしてここに?」
圭さんの突然の登場にびっくりしていた私は本当に今更ながら、病院にいるはずの圭さんがどうして大学の図書館にいるのか不思議になった。
そんな私の質問にくすりと柔らかく笑って、圭さんはカウンターの中に座る私に近づいて、内緒話するように小さな声で言った。
「もちろん、あいに会いたかったから」
すぐ近くで聞こえたその声にゾワリと背筋に甘い痺れが走った。
そしてさっきよりもずっと真っ赤になって、瞬きをして圭さんを見つめた。
間近にある綺麗な顔が満足そうに口端に弧を描く。
「昨日言ったでしょ。不意打ちで来るって」
吐息を零すみたいにクスクスと笑う圭さんは、驚いて恥ずかしがる私にとても満足そうだった。

