「圭さんもそろそろ行かなきゃいけない時間でしょ?」
私が腕時計を見てそう声を掛けると、圭さんは大きな溜息を吐いて嫌そうな顔をした。
「せっかくあいとの時間だったのに、ゆっくりできなかった」
そんなことで拗ねる圭さんが可愛らしくて愛しくて。
私はにっこりと笑うと、圭さんの手をそっと握った。
「あい?」
こんな人がいっぱいいるところで私から手を握るなんて、普段は恥ずかしくてできないことだから圭さんもびっくりしている。
でも今は、恥ずかしい気持ちよりもずっと、圭さんが愛しいと思う気持ちが大きくて自然と圭さんの手を握っていた。
後から思い出すときっと、恥ずかしくて堪らなくなるだろうけど。
「今日はいっぱい時間があるから、夕食は圭さんの好きなものをたくさん作って待ってる。だから早く帰って来てね」
驚いていた圭さんが、私の言葉を聞いて華が咲いたような笑顔を満面に広げた。
そして私の握っていた手を強く握り返すと、私の耳元に顔を寄せる。
「速攻で帰るから。食後のデザートにはあいをいっぱい食べたいな」
「――――っ!」
声に色香を含ませてとんでもないことを言うから、私はボンっと顔を真っ赤にさせて何も言い返せずに圭さんを睨むように見上げた。
「ふふっ。そういう顔も可愛くて堪らない」
満足げな笑顔で圭さんはチュッと軽く音を立てて、私の頬にキスをした。
一瞬の出来事だったけど、ここが病院内で、まわりに人が溢れ返っている場所だってことに私の頭は完全にショートした。
たとえ一瞬でも、それが頬にでも。
こんなところでキスするなんて。
恥ずかし過ぎて、もうここには来れないよっ。
そんな私の反応を楽しむ圭さんは、とってもご機嫌な笑顔で恥ずかしがる私の手を引いて、その場を後にした。

