巡り愛



「け、圭さん。あの、どこ行くの?」


私の手を強く引いたまま早足で歩き続ける圭さんの背中に遠慮がちに訊ねると、不意に圭さんがピタリと歩みを止めた。


「・・・・・矢野に何言われてたの?」


「え?・・・あ、あの・・それは」


「僕には言えないようなことなの?」


私を振り返った圭さんの顔は不機嫌なままで。
話しかけてくれる声も普段よりもずっと不機嫌そうで低い。
つい、しどろもどろになる私の手を強く引き寄せて、私の腰に手を回した圭さんに覗き込むように顔を近づけられた。


近すぎるその距離にドキンと心音が跳ねた。


不機嫌なその顔さえ、私の鼓動を上げてしまうほどかっこいい。
いつもと違う表情だから、余計にそう思うのかもしれない。


「あい?」


圭さんのかっこよさにドキドキしてたせいで黙ったままだった私に何か勘違いしたのか、圭さんが睨むように私を見つめて、低い声で名前を呼ぶ。


「あの、違うの。さっき圭さんと看護師さんが親しそうに話しているのを見て私がヤキモチ妬いてたのをからかわれただけで・・・」


そんな圭さんに慌ててしまった私は、思わず早口で本当のことを言ってしまった。


「え?」


私の言葉を聞いて、圭さんは不機嫌な顔も声もぱっとどこかに消して、びっくりしたように目を丸くした。


その圭さんの反応に私はやっと自分の言ったことを理解して、真っ赤になった顔を両手で隠した。



・・・ヤキモチ妬いてたって自分で暴露するなんて、恥ずかし過ぎる。