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「ああ、そう言えば・・・今更だけど、フルネーム訊いてもいいかな?」


「あ・・・そうですよね」


繋いでいた手を離して、お互いに照れ隠しで冷めたコーヒーを飲んでいたところだった。
圭さんが思い出したように、カップへ落としていた視線を上げてまっすぐに私を見る。
確かに、お互い下の名前は知っているけれど、それ以上はまだ何も知らない。


なんだか改めて自己紹介なんて・・・と少し恥ずかしく思いながら私は自分の名前を告げた。


「えっと・・・水瀬(みなせ)あい・・・です」


「僕は桐生圭(きりゅう けい)です・・・・・ってなんか変な感じだね」


フルネームを教えてくれた圭さんも、私と一緒で少し照れたように頬を染めて小さく笑った。
そんな圭さんの笑顔に私も釣られて照れ笑いを浮かべた。


「あいは学生さん?・・・それとも仕事してるの?」


「ちゃんと働いてますよ・・・と言っても、この春に卒業して働き始めたばかりですけど」


クスクスと吐息を零すように笑う圭さんに続けて尋ねられた。
それに私も笑顔で答える。


「職場は?この近く?」


「はい・・・東都(とうと)大学です」


「え・・・?東都大?・・・・・」


私の職場である大学の名前を聞いた圭さんがびっくりした顔をして、瞬きをした。
どうしたんだろう・・・と思いながら、そんな圭さんに私も首を傾げて頷いた。


「そうですけど・・・なにか?」


「東都大のどこにいるの?大学の事務・・・とか?」


「いいえ・・・図書館です。一応、司書なので」


驚いた表情のまま、質問を重ねる圭さんを不思議に思いながらも答えを返す。
それを聞いて、圭さんは「そうなんだ・・・」と口の中で呟くように小さく言った。