「・・・ごめんね、混乱させているよね?」
私へ申し訳なさそうに呟いた彼の小さな言葉に、私は自分の心の中を確認するように目を閉じた。
そして瞼の裏に浮かぶ心の中の彼と今目の前にいる彼を重ね合わせるように思い描いた。
「・・・圭さん?」
「え・・・・・?」
小さく呟いたその私の言葉に、彼が息を呑んだ。
「圭さん・・・なの?」
閉じていた瞳を開けて、目の前の彼を見つめる。
突然私に名前を呼ばれて、驚いている彼にさっきよりもはっきりとその名前を呼んだ。
でもなかなか答えてくれないから、不安が心をよぎる。
私の勘違い?
そうじゃないと心の中ではっきりと確信できるけれど、やっぱり確かな答えが欲しい。
「圭さん?」
私が焦れたようにもう一度、名前を呼ぶと彼はふわりととても嬉しそうに優しく笑った。
「そうだよ。僕は圭だ」
「・・・・・」
彼からの肯定の言葉に今度は私が息を呑む。
この人は“圭さん”なんだ。
心に湧いていた不安が溶かされる。
彼が確かに“圭さん”だという事実がとても、とても嬉しい。
心に溢れるこの気持ちはまだよくわからないけれど。
きっとそれに名前を付けるなら『愛しい』という感情だと思った。
「圭さん・・・」
私は自然と溢れてくる涙を両手で覆って、静かに泣いた。
“圭さん”が私にとってどういう人なのか。
心に隠れていた今の私じゃない“私”にとって、どういう人だったのか。
それはまだよく思い出せないけれど。
心の中の私が彼に・・・“圭さん”に出逢えたことに例えられないほどの喜びを感じている。
「あい・・・」
圭さんが小さく私の名前を呼ぶ。
それが本当に嬉しくて、私は切なさと幸せで心がぎゅっと痛くなった。

