「あいちゃん、こんなヤツだが、圭のことよろしく頼むよ」
お父さんにまでこんなことを言われて、私は泣き笑いの顔で頷いた。
「・・・・・もう、あいを泣かせないでくれるかな」
圭さんが苦笑いして言う。
でもそれは照れ隠しだってわかるから。
私は滲んだ涙を拭って、満面の笑顔で圭さんを見つめた。
「あら、私達お邪魔みたいね」
お母さんが意味ありげな笑顔でお父さんを見る。
それに同じような笑顔を浮かべたお父さんが頷いて、2人はゆっくりと立ち上がった。
「最初からずっと邪魔だけどね。こんな忙しい時間に女将と板長がサボってるって仲居さん達に怒られるよ」
「そうだな、いい加減ヤバいか」
「そうね、仕方ないからお暇するわ。あいちゃん、また明日の朝ね」
「はい」
私が笑顔を返すと、お父さんとお母さんは並んで部屋を出て行った。
その後ろ姿を見送って、私はお膳の前に座りなおすと、小さく息を吐いた。
「ホント、ごめん。あの2人いつもあんな風だけど、今日はさらに浮かれてるみたいだ」
圭さんは申し訳なさそうに眉を寄せて、私よりも大きな溜息を吐き出した。
「ううん。色々びっくりしたりドキドキしたけど、素敵なご両親だと思うよ」
「あいのことかなり気に入ってたね」
「そ、そうかな?」
「さっきの台詞も本気だよ、あの2人」
本当にそうなら嬉しい。
さっきのお父さん達の言葉がお世辞じゃなく、本音なら舞い上がるくらい嬉しい。
だって、大好きな人のご両親に気に入られるって、とても幸せなことだと思うから。
「僕も、嬉しかったよ」
「え?」
ぽつりと呟いた圭さんの言葉に、私は彼の顔をじっと見つめた。
圭さんの頬が少し赤いのは、ちょっとだけ飲んだお酒のせい?
「あいが父さんの言葉に頷いてくれて、嬉しかった」
私を見つめ返して微笑む圭さんは、私の心を攫う天才じゃないかと・・・ドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、頭の片隅で思った。

