「大丈夫?」


穏やかなトーンでそう聞かれれば、その声に滲む優しさに心がキュンと甘く疼く。


初めて逢った人にこんな風にときめくなんて・・・。
そんなことあるんだな・・・・・。



なんてボーっと思っていた私だけど。
私を支えるように抱き締めてくれている彼もなぜか驚いた顔をしていて。
なかなかその腕を放そうとしない彼を不思議に思いながら、おずおずと声を掛けた。



「あ、あの・・・」



抱き締められたままの体が火照るように熱い。
顔もきっと真っ赤になっている。
こんなに素敵な人をこんなに間近で見つめることもなければ、まして、抱き締められるなんてこともないから。
私は恥ずかしくて、どんどん上がる熱を持て余してしまう。



「ありがとうございました。ご迷惑おかけしてすみません」



驚いたままの彼が私の体を起こしてくれて、そっとその手を私から放す。
彼の温かな体温が離れていくことがとても残念で、寂しくさえ思ってしまう自分に内心焦りながら、私はお礼を言って頭を下げた。



それでもまだ、驚いたままの表情の彼に私はもう一度頭を下げて、お礼の言葉を口にした。


「あの・・・本当にありがとうございました」


それだけ告げて、私はその場を立ち去ろうとした。
本当はものすごく離れづらかったのだけど。
もっと一緒にいたいなんて。
微かに想っている自分自身がよくわからなくて、私は逃げ出すように足を踏み出した。