【side あい】



いつもの仕事帰り。


私は普段と変わりなく、帰りの電車に乗るために駅の構内をホームに向かって歩いていた。


けれど。


何かに躓いたように一瞬、ふらついてしまって。


―――…転んじゃう!


そう思って咄嗟にぎゅっと目を瞑っていしまった私だけど、予想に反してコンクリートに転んだ感覚も痛みも全く感じなくて。
その代わりにふわりと何か温かいものに支えられるのを感じて、私はびっくりして顔を上げた。


そこにはドキリとするほど涼やかで端正な顔立ちをした男の人がいて。
さらりと流れる少し色素の薄い前髪の隙間から覗く、髪と同じくらい色素の薄い茶色の大きめの瞳が優しそうに細められていた。


そんな人に抱き締められている格好のその状況と、何よりその人があんまり綺麗な人だったから。
私はどうしていいのかわからずに、その体制のまま思わず固まってしまった。