確かに、あいに出逢ってからの僕はどこかふわふわしていて。
落ち着きがなかったと思う。


あいに出逢えたことへの喜びと。
初めて知る愛しい人への様々な感情と。
“あの頃”の記憶からくる不安と。


すべてに翻弄されていたのかもしれない。


かなり情けないな・・・


そう思うと、自嘲気味な笑みが無意識に零れていた。


「いいんだよ、それで」


「え?」


少しだけ黙って僕を見ていた矢野が、ふっと息を零すように笑った。
そして、何がいいのかよくわからなくて見返す僕に矢野はニヤッと口角を上げた。


「今までがおかし過ぎたんだ、お前の場合。人間らしい感情ってものに無縁でさ。だから今みたいに些細なことに一喜一憂するお前はバカみたいだけど、昔より断然いい。こっちも安心するよ」


「・・・バカみたいは余計だけど。・・・・・ホント、矢野っていいヤツ過ぎて笑っちゃうな」


「あ?なんでそこで笑う!?」


何度目かもわからないくらいの照れ隠しに、苦笑いして悪態をつくと、矢野は真面目な顔をして見せながら、僕の頭をグイッと押した。


「痛いよ」


軽く押されただけで大して痛くもないけど、僕が大げさに頭に手を当ててそう言うと、矢野は面倒くさそうに眉を寄せた。
でもすぐに二人で目を見合わせて、吹き出すように笑い合った。


矢野が僕の同僚で、友達で本当によかった。


笑顔を浮かべた心の中で、僕はそう矢野に感謝して、僕らはひとしきり笑っていた。